ブルー&グリーン~三原由美子の執念・1 第46話『恐怖への招待状』

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ある日の富士見高校バレー部部室。

 

女王・大沼みゆきとその極悪親衛隊3人組が、今日の練習で新入部員のこずえと早川を足腰立たぬほどシゴキ倒した事をネタに談笑していた。
そこへ顧問の清水が入ってくる。
清水のうしろにはブルーのブレザーを着た他校の生徒が立っていた。  

 

「大沼さん。お客様よ。」

 

清水とツーショットで愛想よくニコニコ笑っている青い目の少女。
しかし、このシーンを見て再放送でその後の展開を知っている者は息を呑んだだろう。

 

原由美子だ。

 

これが三原の初登場シーンであった。
三原は富士見高バレー部に練習試合を願い出た。ニコニコと愛想笑いを絶やさず、その上で女王に謁見する臣下よろしくあくまで低姿勢である。
大沼も女王然としてふるまう。袖のボタンを閉める顔を上げることなく、横を向いたまま了解の旨を伝えるのだった。
まさか後にこの三原に無残に叩きのめされる事になろうとは、この時大沼は微塵も思わなかったはずだ。
そして大沼はおろか、この段階ではまだ誰も三原由美子の魔性を知るよしもなかったのである。
(第43話・『女王への挑戦』)



三原のブルーとこずえのグリーン。

 

青い瞳と緑の瞳。

 

ブルーのシングル・ブレザーとグリーンのダブル・ブレザー。

 

奇しくも瞳と制服の色が合致するという共通項(?)を持つこの二人は、しかし磁石の同極の如く決して互いに相容れぬライバルであった。

 

原由美子はこずえより一級上の2年生。その思考、論理は全てが自己中心。時にギャグかと思わせるほど身勝手なものだった。
その上「アタック」の登場人物中、屈指の凶悪キャラである。指をポキポキ鳴らし、わざと顔面を狙って強烈なスパイクを叩き込む。

 

三原の通う美沢学園は新設されたばかりの高校である。
潤沢な資本にあかせた贅沢な設備を誇り、近隣からは「ブルジョワ校」と呼ばれていた。当然、そこへ通う生徒も資産家の子弟が多い。
そんな美沢学園でも三原は特別で女王的な存在だったようだ。
チームメイトもまるで手下か女中並みの扱い。原作では「お嬢さん」とゴマをする腰巾着のチンピラまで引き連れていた。
そしてこずえに勝つためには手段を選ばず、スパイクマシンを個人で購入したり、決闘まがいの対決や富士見中学から本郷を引き抜く事まで企てる。
しかしその実力は相当なレベルにあった。
三原嫌いのこずえをして『功・守ともに高いバランスで優れ、チェシカに匹敵するおそるべきプレイヤー』と言わしめたほどである。

 

が、結局この性格が災いして毎回チームプレーを無視、三原自身はズバ抜けた実力を持ちながら試合ではいつも富士見軍団の後塵を介する事となった。

 

打倒こずえに異常な執念を燃やすも、最後は己の限界を悟り去っていった三原由美子
アニメでの三原は当て馬的な扱いに終始し、歴代ライバルの中ではパッとしなかったのが正直な印象だ。
不遇のライバルキャラだったと呼べる彼女の戦いとは、またいかなるものだったのか?

 

 
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それまで猫をかぶっていた三原が本性を現したのは第46話『恐怖への招待状』。

 

こずえにたいする一方的な敵愾心に燃える三原はスパイク・マシンで己を鍛えに鍛え、万全の気合で富士見との試合に挑むが新生富士見バレー部のマシンガン・アタックと鉄のチームワークの前に敢え無く敗れた。
だがその結果に納得しない彼女は、すぐさまとんでもない手段に訴える。

 

『一人制バレー』事件である。

 

そもそも6人で試合をしたのが誤り。味方は足を引っ張り、敵の5人は卑怯にも鮎原を支援した。
ならば、邪魔な5人は省いて1対1で試合をすれば真の勝負が出来るはず。
これが三原の考えた『1人制バレー』である。
しかし、これはバレーボールと言えるのか?

 

こずえとの1対1の勝負をつけるべく送った『一人制バレー』への招待状。
だが生憎こずえは不在だった。
キャプテン大沼はこれが非常に危険な私闘であると察知し、急遽代理として試合を受ける事とした。
が、その大沼に対し三原は

 

「どうなっても知らないわよ」

 

と、凄む。
三原の態度は初対面の時とは一変、もはや見せかけの礼儀すら払おうとしない不遜なものに転じていた。

 

実際、1対1の勝負では大沼は相手にならなかった。
ルールはお互い5本づつスパイクを打ち、その成否で勝敗を競う。三原は余裕で大沼のスパイクを全て打ち返した。
しかも、日本ではこずえしかできないはずの超絶技である空中回転レシーブまで披露してみせたのだ。

 

(やられるかも知れない・・・)

 

焦りで大沼の顔がゆがみ、息が荒くなる。

 

「フフ。私のスパイクをレシーブする前に、あなた少し休憩する必要があるんじゃない?」

 

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コケにされた!! 

 

瞬時に全身の血が逆流した大沼だったが、しかし逆にグッと押さえた口調でガツンとやり返す。

 

「・・・あなたが必要なら、休んであげてもいいわよ?」

 

今度は三原の顔から余裕が消え、凶悪な本性が剥き出しになった。

 

「このまま続けましょう!」

 

この大沼と三原のやりとりは実にスリリングだ。
三原も大沼もどちらも『女王』と呼ばれるプライドの持ち主。
実際に顔色が変わったり怒りに震える体が表現されているわけではないが、言葉による抜き差しならぬ戦いが二人の間で繰り広げられている事はビリビリ伝わってくる。
甘ったるい子役系の印象が強い栗葉子野村道子の、珍しい大人のガチな演技もカッコいい。

 

しかし今の子供が見てもこのシーンの凄みは理解できないだろう。
ただ相手を貶めるだけのレベルの低い悪口を並べるのと違い、短い言葉をもって敵の肺腑をズブリと抉る。受ける方も、どんな状況で何を言われたらそれが許し難い侮辱に価するのかよく心得ていたものだ。

 

結局、三原の顔面スパイクを叩きこまれた大沼は血反吐を吐いてブッ倒れる。
なんとか意地で立ち上がるも、今度は内臓に強烈な一撃をぶち込まれ、腹にめりこんだボールを抱えたまま起き上がる事は出来なかった。

 

2-0で大沼完敗。物凄いやられっぷりであった。

 

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勝ち誇る三原。
『私は鮎原の替わりに挑戦を受けた富士見高のキャプテンに勝った・・・つまり、私は鮎原こずえにも勝ったと言う事になるわ!』

 

・・・むむ。

 

それは誰が聞いても屁理屈というものでは?

 

だが三原は嬉々としてそう語っていた。本心からそう思い、喜んでいたのだ。
己が納得すれば世界が完結。これぞ三原式原理主義だ。
『鮎原に勝った、鮎原に勝った♪』 そう言って小躍りしながら引き上げようとする三原。だがその時、


「喜ぶのはまだ早い!」

 

こずえの鋭い声が飛んだ。
夕暮れの砂浜。
己の自己満足のためだけにバレーを利用、その上負けた腹いせに無関係の大沼を足腰立たぬほど痛めつけた三原に対し、駆けつけたこずえは燃えるような怒りに身を震わせていた。
こずえの比類なきカッコよさについては今さら語るまでもないが、圧倒的身震いするほどカッコよかったシーンのひとつにこの一場面が挙げられよう。

 

「・・・一言いわせてもらうわ。三原さん、あなたってずいぶん卑しい根性の持ち主ね!
試合に負けてくやしかったら堂々と挑戦してくればいいじゃないの。それを個人的な果し合いで復讐しようなんて、スポーツマンの風上にもおけないわ!」

 

こずえがここまで面とむかって激しい憎悪をぶつけた相手は三原と三条ぐらいなもんだろう。
しかも三条の時は個人的な私怨と、猪熊に空中回転レシーブを全否定された件に関する八つ当たりの感情も含んでいたが、三原に対してはスポーツの大義、正義の怒りであった。
しかし三原も相当なものである。全身に怒りをみなぎらせ詰め寄るこずえに一歩も引かない。
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「言いたい事はそれだけ?」

 

とシレっと切りかえし、さらにこう言い放つ。

 

「私個人の実力ではあなたに決して負けないつもりよ。無能なチームメイトが足を引っ張ったせいで試合で負けた、それが悔しいのよ!私はあなたに負けたと思われるのが嫌なのよ!」
どうやら三原的にはこずえとの勝負も一勝一敗というつもりだったらしい。
一勝・・・というのは、例の石灰事件の時の試合である。第一セットはこずえのスパイクに圧倒されっぱなし、第2セットは早々に石灰で目を潰されたこずえが退場して勝った試合の事だ。
しかもこずえ退場後は大沼たちがわざと手を抜いて自滅した疑いもあるのだ。こずえら一年生に敗戦の責任を取らせ、バレー部から追い出すためである。

 

こんな自分勝手でぶっ飛んだ思考回路を持つ三原とまともに話し合っても理解し合えるはずがない。こずえが本気で腹を立てても意に介さぬどころか、一方的な論理を主張し聞く耳を持たなかった。
両者全く話が噛みあわず、睨みあったまま激しく火花を飛ばしあう。

 

こずえ:「これ以上話してもムダね。いいわ。相手になってあげる!・・・・その自惚れを打ち砕いてやるわ!

 

三原:「それはこっちの言う事よ!」

 

なにが『こっちの言う事』なんだか。
制服姿で身構えるこずえ。巨大な目玉の奥に怒りの炎がゴゴゴと燃え上がる!

 

「こ、こんな激しいこずえを見た事ないわ!」

 

阿修羅と化したこずえに、親友の早川ですら震え上がってしまう。
たまたま一緒にいた努も三田村も口あんぐり、汗タラ~リの状態で固まってしまった。
こんなときの男は全くだらしないネ。
この勝負、こずえの打つスパイクを10球中9返せば三原の勝ち、8なら引き分け、それ以下ならこずえの勝ちというものだった。

 

結果は、八木沢三姉妹の乱入でノーコンテスト

 

ただし途中までで三原は2本ミスしていたから、続けていたとしても引き分けが最高で三原の勝ちはなかった。
勝負のさなか、一迅の風の如く現れた八木沢三姉妹が三原の逃したボールをレシーブしてしまうのだ。
ここから話は八木沢三姉妹が中心となり、三原はおいてけぼりを喰らう・・・

 

そして三原がメインのライバルとして君臨できたのも、この瞬間までだった。(つづく)





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余談だが、三原の声を担当した野村道子は「ドラえもん」のしずかちゃん(2代目)の声が余りにハマりすぎていたため、三原のような黒いキャラクターは新鮮に映る。
またワカメ(2代目)も有名だが、この頃の野村氏はおばさんや悪役など結構色々やっていた。
中でも忘れられないのが「デビルマン」の妖獣イヤモン。有名な拷問シーンはともかく、天井から舌を垂らしてチュクチュクと生気を吸いとるグロい仕草が、子供心に強烈なトラウマを植えつけたものだ。
今見ると野村声で「死ねぇ~!!」とか「糞ォ~!」とか聞くのはなかなか乙なもんである。

 

ちなみに初代しずかちゃん(日テレ版ドラえもん)は垣之内良子役の恵比寿まさ子だった。











原由美子・・・野村道子
鮎原こずえ・・・小鳩くるみ
大沼みゆき・・・栗葉子

 

第46話『恐怖への招待状』(1970・10・18)放映