アタックNo.1の原点~桂城由美は偉かった

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『アタック№1』で、こずえの最初の敵として立ちはだかったのが、この富士見中バレー部キャプテンで3年生の桂城由美だった。

こずえの眠っていた闘志をかきたて、天才を呼び覚まし、彼女に生涯にわたる栄光の、そして地獄のバレー道(みち)を歩ませるきっかけを作った張本人である。
そして戦いの後はよき仲間となる黄金パターンの第一号でもあった。
二人の関係は飛んできたこぼれ球を見事なレシーブで返したこずえに桂城が声をかけた事に始まる。

「あなたバレーが好きなんでしょ。ね、私達のバレー部に入って一緒にやらない?」

それは彼女の本質であるストレートな善良さと素直な親切心から出た言葉だった。
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転校早々から破天荒な振る舞いを繰り返していたこずえの悪い噂は、桂城ら3年生の耳にも入っていた。
まっとうな運動部ならこんな問題児は相手にしないどころか本人が入部を希望しても拒否するだろう。
しかし桂城は、毎日遠くから寂しげにバレー部の練習を見ていたこずえに気付いており、疎外感を丸出しにして佇む彼女を放ってはおけなかったのである。
ところが、その申し出に対しこずえは

「結構です。私、負けるのが嫌いですから。」

と無礼な返事を返す。
噂どおりの生意気な態度に部員達は一斉に反発した。

それでも桂城は、数日後に再びこずえをバレー部へ誘う。バレーの素質あり、と見た事に加え、放っておけば荒んでゆくままという彼女を、なんとかしてやりたいという気持ちがあったのだ。

だがこの時すでに柏木ら不良グループの『親分』に祭り上げられていたこずえは、桂城の使者である長谷と原を前に
「あんな(レベルの低い)バレー部に入るよりも遊んでいたほうがマシ」
などと、今度は完全にケンカを売るような発言をしてしまう。

桂城もこれには態度を一変させ激怒した。
彼女にとって暴言もさることながら、こずえが不良グループに入った事が決定的だった。

正義感の強い桂城にとって柏木ら2年生の不良グループは目障りこの上ない存在であった。
そして一度は目をかけようとしたこずえが、そんな連中の仲間に加わるどころかそのボスに収まってしまったという事で、一方的に「裏切られた」と感じてしまったのだ。

裏切られた上に2度も自分のバレー部をバカにされた以上、もはや絶対に許せなかった。
ここが単純な正義感や善良さの陥りやすい恐さで、敵と決め付けたものを徹底的に憎み、滅ぼしてしまうまで攻撃しようとする過激さと表裏一体の危うさが当時の桂城にもあった。

じっさい、この時桂城らバレー部員たちがこずえに対して行った『制裁』はバレーコートに呼び出したこずえに全員でよってたかってボールをぶつける集団リンチであった。
しかも教師たちも延々これを傍観していたというからひどい話である。
このような制裁が学校ぐるみで正当化されてしまう事で、こずえと不良グループの立場があぶりだされる。助けに入った仲間たちを『学園のクズ』と呼び無用の半端もの扱いする仕打ちに、今度はこずえの怒りが爆発した。
そしてついにバレー部へ挑戦状を叩きつける事となったのである。

バレー部対不良グループのメンツを賭けた決闘となったこの試合、場外での抗争もエスカレートし一時は乱闘寸前にまで発展するが、激闘の末こずえたち不良チームの勝利に終わった。

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試合を通じお互いの誤解やわだかまりが解けると、桂城は天晴れな潔さで自分たちの非を認め和解を求めた。
「私達、きっと仲良くなれるわ。最初からこうなるのが本当だったのよ。」
少々できすぎの感もあるが、やはりこのシーンには素直に感動させられる。
そしてこの日より不良グループの五人と共にバレー部に入部したこずえの、栄光と苦難に満ちた『アタックNo.1』への疾走が始まるのである。

ところでこの不良チームとの試合だが、当時の中学バレーは9人制から6人制への移行の過渡期であり、原作では6人制バレーを始めたばかりの桂城たちの弱点を突くというこずえの作戦が明白に説明されていた。
つまりローテーションもなくポジションもフリーな9人制で、アタック専門だった桂城は後衛での防御には不慣れであり、それを読んだこずえが彼女に集中攻撃を浴びせ見事戦局を逆転したのであった。
アニメでも桂城のレシーブの下手くそさは目立っていたが、実はその裏にこんな事情もあったわけだ。


その後の桂城は本来の性格に落ち着き、卒業するまでこずえの最大の理解者となった。
早川によるバレー部乗っ取りの陰謀にあっては孤立したこずえを支え励まし、また二人が暴力で衝突しようとした際には両者を厳しく諌めこれを制した。こずえと早川の友情も、こうした桂城の活躍がなければ成りえなかったかもしれない。
このように彼女は短い期間ではあったが、最後まで富士見中バレー部のよき先輩としてその存在感を示したのであった。

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桂城の選手としての実力はせいぜい中の上低度で決して高いものではなかった。
特訓でも案外すぐにへばって後輩達の前で情けない姿をさらしたりもしている。
桂城キャプテン時代の富士見中バレー部は対校試合で一度も勝った事のない「出ると負け」の弱小チーム。当初の練習の様子は、こずえがやる気を失くす程ひどいレベルだったようだ。



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次に桂城が登場するのは高校編である。
彼女が大沼グループの支配するバレー部から逃げ出し、バスケ部に入っていたのは衝撃的であった。

『みなさんバスケット部へどうぞ!』

嬉々として新入部員勧誘の呼び込みをする桂城は、驚くこずえらにバスケ転向まで勧める・・・
小沢と香取は、桂城に従ってバスケ部に入部したのか結局このまま姿を消してしまった。中沢も一時バレー部入部を止めてしまう。
『高校へ入っても、みんなと一緒にバレーを続ける』 ために富士見高校へ進学したはずの三人が、桂城の手引きでバレーを捨てた事になった。(中沢はすぐに戻ってくるが)

こずえ式に言うと、これは愛するバレーに対する裏切りではないのか?
バレー部の後輩達を前に、ケロリとした表情でバスケ部入部をすすめた桂城の態度には不信感すら覚えてしまう。

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一方、桂城の忠告を振り切りバレー部に入部したこずえは、無残にも大沼一派にイビリ抜かれたあげく、石灰で目を潰されボロボロになって叩き出されてしまう。

そんなこずえに桂城は再度バスケ部への入部を進めるが、こずえはその誘いも断る。
去っていく後姿を見ながら、桂城はそっとつぶやく。

『そんな目に遭わされても、どうしてもバレーを捨てられないのね。分かるわ、あなたの気持ち。』

実はこの一言に、彼女の真実が込められていたのである。

桂城自信は語る事はなかったが、人一倍正義感の強かった彼女が、あの極悪卑劣な大沼一派とどう戦い、打ちのめされ、結果逃げ出すに至ったかその経緯は想像するに難くない。
桂城とて、本心では辞めたくなかった。どんな目にあっても続けたかったはずである。

しかし人にはやるだけやってもダメな時、意志の力ではどうにもならない時が来る。
ギリギリの所でポキリと折れてしまう瞬間があるものだ。
イビられてもイビられても、バレーを捨てられず耐えてきた彼女だったが、ついに肉体的にも精神的にも耐えられない限界点を超えてしまい、転んだ。
こずえらをバスケ部に勧誘したのも、心からの親切心からだったはずだ。

追放されたこずえと、泣く泣くバレーを棄てた自分。続けたくても叶わなかったその悔しさは同じだ。
桂城にはこずえの気持ちが痛いほどよく分かるのであった。

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その悪の張本人だった大沼であるが
クーデター事件の後、追われるような形で自らバレー部を飛び出し、失意のどん底で身を滅ぼしかねなかった彼女を救った陰の功労者も桂城だった。

バレー部に大沼を復帰させる事など当初誰も想像できなかった事である。
こずえも大沼と神田たち親衛隊は一枚岩で、石灰事件も大沼の指示があったと信じていた。そして猛烈に彼女を憎んでいたはずだ。
しかしバレー部に籍を置いていた桂城は、神田たちの権力欲と歪んだ忠誠心が暴走し、大沼がコントロールできない状態にあった事を見抜いていた。これは武市たちですら気付かなかった事である。

「だから石灰事件も彼女の知らない事だったと思うわ。」

誰もが憧れるカリスマプレイヤーだった大沼。
しかしキャプテンとなり伝統的なバレー部の形に固執しすぎた事に加え、大沼を崇拝する神田らに女王様にまつりあげられてしまった事で冷酷な独裁者に変貌してしまった。だが本当の彼女は誰よりもバレーを愛し、バレー部を愛していたはずだ。
これらの話を桂城から聞かなければ、こずえも大沼に戻ってきて欲しいなどとは思わなかっただろう。

そして大沼がキャプテンとして復帰しなければ、武市らの離脱で露呈したこずえらと2年生たちとの確執によって富士見高バレー部は空中分解に至ったであろうし、ダブルアタック、消えるアタック、変化球トスも存在せず、最強富士見軍団の栄光はなかったと言えるのだ。



桂城がいなければこずえが再びバレーコートに立つ事はなかっただろうし、早川との友情も富士見高バレー部の快進撃も、そしてこずえのアタックNo.1伝説も生まれなかっただろう。
物語冒頭より、桂城がこずえに対し陰に日向に数多くの運命的な役割を果たした事は間違いなく、その功績は計り知れなかった。

桂城由美は、『アタックナンバー1・鮎原こずえ』の恩人、原点として深く心に刻まれるべき存在なのである。





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ウッシッシ・・・目的のためなら手段を選ばず。ブラック桂城、邪悪な笑みでこずえを陥れんと欲す。この子供っぽい二面性、非常に分かりやすい性格だ。(第1話)

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叱られて・・・ぐっすん。大人びた事言ってても中学生。先生に怒られたらこんなにシオシオになってションボリしちゃうのよ。(第5話)


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そして高校時代。髪型が変わり、体もずいぶん丸くなって貫禄十分の美人に成長。子供っぽさは消え、真っ直ぐで清い心の美しさも顔に出ております。  (第44話)
 




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桂城最後の登場シーン(第88話)。
久々に姿を見せた桂城だが、どことなく緊張感に欠ける間抜け顔になってしまっているのは単に作画のまずさだけではあるまい。
物語も終盤に入ると戦いの厳しさは熾烈を極め、メインストーリーを歩む者と離脱した者たちとの落差が際立ってくる。
身を削る死闘の中に身を置くこずえたちと、無邪気にただ声援を送るだけになった桂城はもはや別世界の人間であり、彼女の役目はすでに終わった事を示していた。
同様に右側、卒業後すっかり日常に埋没して魂が抜け切ってしまった大沼の姿も悲しい。