アタック的恋愛模様 ~1・晴子と俊介

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ところでアニメの本郷と清水は結婚する事になるんだろうか。

 

原作では清水は教師を辞めて学生時代の先輩だった岩島の田舎へ嫁ぐ。本郷は最後の最後に体操部の中島先生と結婚した。

 

アニメでは岩島が登場しなかったかわりに、原作では全く接点の無かった本郷と清水の関係が濃密になったようだ。
第57話のこずえのモノローグにもあるように、清水が本郷に片想いをしていたのは公然の秘密だったようで、普通に考えれば二人の仲は結婚に発展すると思える。
だがアニメ版の中島先生も本郷に『ぞっこん』という証言(第15話)がある。

 

どちらかと言えば、アニメにおいても中島の方が個人的な付き合いがありそうであった。
本郷の中島と清水に対するそれぞれの接し方を見ると、中島に対する態度の方が同僚としての気安さかフランクで砕けており、会話も楽しそうである。
一方、清水との間には微妙に上下関係の壁があり、会話や接し方も少し距離を置いているように見える。
原作で結ばれた中島と本郷の仲もファンとしては無視できず、安易に清水と結婚したという結論を辿っては面白くない。
じっさいの所、本郷と2人の関係はそれぞれどうなっていたのだろうか?



ちなみに原作は少女マンガだけあって、アニメではスルーされた登場人物たちの恋愛模様も詳しく描かれていた。
清水と岩島を筆頭に早川と三田村、大沼と宮部(男子バレー部主将)、竜二(原作では努の兄)とクラスメートの美少女、湯島と川北愛子(許婚の御令嬢)、そして本郷と中島先生などがそれぞれ結ばれる。
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パロディの世界でありがちなのが、本郷とこずえが結婚するというパターン。
姫野カオルコの短編小説で登場した本郷は、なんと早川と結婚していた。これはもう論外だが、本郷がこずえと恋愛関係になるというのもまず無いのではないか。
往年のファンでもこずえが本郷に恋心を持っていたと勘違いしている人が多いが、どうも『サインはV!』や『エースをねらえ!』とごっちゃにしているようである。原作もアニメもこずえが本郷に対してそんなそぶりを見せるシーンは最後まで無いし、お互い師弟愛的な好意は持っていても男女として意識していないのは明白だ。
もしあるとすれば、肉体も精神もボロボロになった晩年のこずえに至高の愛の手を差し伸べるとか、そんな展開しか浮かばない。






さて
まずアニメの中島と本郷の仲についてどうだったのか、例によって妄想補正を加えた上で勝手に推理してみる。
ポイントは第48話で再登場した後の本郷である。

 

『本郷先生は変わった。厳しさを兼ね備え、一回り大きくなったようだ。』

 

三田村もこう証言しているが、たしかに中学編と高校編では本郷のキャラには変化が見られる。
中学時代の本郷には、生徒の前であわてたりキョドったり(第7話・第30話)するなどまだ人間的で親しみやすい一面があったが、再登場後にはこうした性格的な丸みが無くなったように見える。



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加えて高校編では何事に関してもシビアで厳しすぎる言動が目立つようになり、心を閉ざしているような頑なさも感じられた。つまりこずえたちの卒業後たった半年足らずの間に、本郷の心に重大な変化をもたらす何かがあったのではないかと推察されるのだ。

 

それは一体何か?



ズバリ、失恋。

 

本郷と中島は付き合っており、その仲が破綻した事が本郷の心に変化をもたらしたのではないだろうか。

 

第2話で本郷と供に不良グループを木陰から見守っていた「担任」の女教師が中島(劇場版での本郷のセリフ、さらにアミューズ版DVDの解説による)だったとすると、彼女とは以前から親しい関係があった事を伺わせる。

 

そして自分の体操部を犠牲にしてまで本郷に尽くした中島である。
こずえの入部を心から喜んでいた体操部員たちは、自分達が利用されただけと知った後、中島に対してどんな感情をもったであろうか。彼女達が噂していた通り中島が本郷に『ぞっこん』だったのは事実だろう。

 

やはり二人はデキていたのである。

 

しかし理想主義者で今風に言えば「空気の読めない」本郷ゆえに。
おそらく相応の見返りを期待した中島にトンチンカンな対応してしまったのではないか。
それが原因で二人の仲はギクシャクし始め、敢え無く破綻・・・あり得る展開である。

 

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従順で大人しい印象の清水とは対照的に積極的で気の強い中島。情熱的な現代女性でもある中島は、関係が成立して素の付き合いになるや、正論だが古風で風変わりな理想と信念を曲げない頑固者の本郷と感情的な衝突を繰り返すようになる・・・

 

愛の深淵と不条理な人間心理の綾を身をもって思い知った本郷。
真の愛とはなんぞや?おれには女心などわからん。女心がわからんおれに、女性と一生付き合って行く資格などないのだ・・・
などと恋愛に関してすっかり頑なになってしまう。
全てを吹っ切るため富士見中学を離れ、美沢学院のコーチを引き受けようとしたのも、正にこの時期だったのである。

 

三田村の感じた『一回り大きくなった』とは、こうした愛の修羅場によって刻まれた傷、本郷の心の憂いを嗅ぎ取った上での人間的な深みが増したという意味であったら、なかなか鋭い洞察であった。




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そして清水晴子である。 
原作での清水の立場は微妙だ。彼女は校長の娘という事になっており、学園理事でPTA会長の親を持つ大沼との間で板ばさみにあっている。
そのためバレー部で横暴の限りを尽くすキャプテン大沼に
「先生は名前だけの顧問でいいんです。」
と面と向って侮辱されても言い返す事ができないほど無気力になっていた。

 

アニメではたった2回で終息してしまうこずえと大沼の抗争も、原作では長く陰湿な戦いが単行本丸々1冊分に渡って繰り広げられていた。その内容も陰謀、リンチ、暴行シーンのオンパレードで、アニメでこのドロドロ展開を早々に流してしまったのは正解だったと言える。

 

さらに原作では大沼と清水親子の関係以外にも、大沼の父親がこずえパパの会社の社長だった、などというとてつもなく不吉な設定まで用意されていた。
このまま物語も
『親の権力をバックにしたボスとの対決、学校やコミュニティ全体を巻き込んだ一大闘争劇』
という70年代マンガお得意の展開になだれこむのかと思いきや、幸いな事にそれ以上の発展はなくこれらの設定はあっさりスルーされてしまった。
(黒幕と思われた大沼パパが実はすごくいい人だった、という突然のアクロバットで全てがオジャンに。)

 

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アニメではこうした事情は全て削られた。
清水と校長の関係も全く赤の他人とされ、大沼のバックについても特に言及されていないので無しと見ていいだろう。
したがって清水の大沼に対する腫れ物に触れるが如き態度、特に石灰事件のもみ消しなど教師にあるまじき姑息な振る舞いも、結局は後に本人が懺悔した通り、単なる消極的な事なかれ主義によるものだったと思われる。





そんな清水が本郷に惹かれたのはいつ頃だろうか。

 

全国大会優勝と日本代表選手二人を送り出した名コーチ・本郷の顔と名前は地元に知れ渡っていたはずだ。
それにイケメンでもある。面識はなくとも、女性として彼に憧れの感情を抱いてもおかしくはない。
さらに自分が受け持つ事となった新入生のクラスに、鮎原こずえの名前があるのを知った清水が、同じバレー部顧問である本郷を強く意識しないはずがない。
それまで見てみぬふりをして放置し続けてきたバレー部の指導を急に始めたのも、こずえを通して本郷に感化された清水が今までの己の行動を恥じ、反省したゆえの決意の証しだったと見ても間違いは無いだろう。

 

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こうして猛然と熱血コーチぶりを発揮した清水であったが、やがて限界がくる。
『マシンガン・アタック』をものにして美沢との再戦には勝利するも、続く八木沢三姉妹との変則試合で主力3選手が子供扱いされてしまった事でチームは崩壊の危機に。 もはや自分の力では修復不能と悟った清水は、意を決して本郷にコーチ就任を依頼するがすげなく断られてしまう・・・



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初対面の本郷は、グっとくる渋さがあったはずだ。
たしかに第47話に登場した最初の本郷の姿には、人を寄せ付けぬ求道者然とした厳しさがある。加えて失恋の痛手から漂う、どこかやさぐれたムード。
若き指導者の強さと頼もしさの影に漂う謎の哀愁、ミステリアスなメランコリー・・・・
これはかなりヤバイ。

 

こんな男に乙女チックなロマンを感じてしまうなら、かつて文学少女でもあったはずの若き国語教師・清水晴子のイメージにピッタリくる。

 

とするとやはり一目惚れだった、という線が妥当だろう。

 

ならばこの後の涙も別の意味を持ってくる。
己のコーチとしての無力さに絶望した事もさることながら、本郷に振られてしまったという乙女心も多分に作用していたのに違いない。

 

最終的に本郷はコーチを引き受ける事となるが、清水には立場上ストレートに彼に思いを伝える事はできなかった。
もし本郷がそれに少しでも気付いてくれれば、お互い自然な形で歩み寄る事ができただろう。だが、固く心を閉ざした本郷は清水の熱いまなざしにもまるで無反応なのであった。

 

しかし、じっさい本郷が清水の気持ちに気付いていたかどうかは怪しい。
中島との一件もありストイックに色恋沙汰を避けているようにも見えるが、案外何も考えてないような気もする。
そんな本郷の鈍感さこそ、まさに中島との関係を破綻させた要因のひとつだったと見る事もできるからだ。

 

49~51話におけるこずえに対する清水のいたわりは、そんな本郷に対する彼女のあてつけのようにも思える。
 突如訪れた突き上げるような激しい恋の感情に戸惑うこずえと、一向に伝わらぬ本郷への想いに悶える清水。バスの中で本郷に耳打ちした言葉は、恋する女心をもっと理解せいとあてつけた、彼女自身の気持ちであったのかもしれない。

 

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本郷、戦いに来てるのに浴衣でくつろぎすぎ。あと胸もはだけすぎ!

 

この時清水は洋服を着用しているのに注目。もし彼女まで浴衣姿だったら、とてつもなくエロエロな絵になってしまっていただろう。
本郷は何も考えていなかっただろうが、清水は「不適切な関係」を疑われぬよう目一杯配慮していたに違いない。
この二人、旅館の部屋で二人っきりになる機会がやたら多く、一度などは停電で真っ暗になった部屋に二人きりというシチュエーションまであった。

 

そして旅館といえば、第58話で「本郷の夜のアリバイ」を自信満々に証言して見せた清水である。
切ない想いに悶々として眠れず、隣室で一晩中本郷の寝息をうかがっていた彼女の姿が目に浮かぶようだ。




本郷が清水の愛を受け入れるのはいつの日のことだろうか・・・