禁断の花園~大沼みゆきをめぐって3 第44話「強敵・スパイク・マシン」第45話「マシンガン・アタック」

第44話「強敵・スパイク・マシン」 Bパート
石灰事件や部室での乱闘騒ぎが公けになり、窮地に追い込まれた女王・大沼キャプテンとその一党。
とり巻きの神田・須賀・中原たちは実力で武市ら反乱グループを叩き潰そうと息巻くが、実行犯の中原はあせりを隠せない。物的証拠である石灰タオルの行方は未だ不明なのである・・・

 

「あなたたち、つまんない事してくれたものね。人の気も知らないで!」

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・・・え?

 

3人は大沼の言葉に耳を疑った。

 

つまんない事? 人の気も知らない?

 

あのとき大沼はこずえの目を潰し、あまつさえ失神までさせてしまった事すら受け入れてくれたではないか。
石灰で目を潰す。
それはこれまでやってきたシゴキやイビリとは一線を画しており、露見すれば退学を含め等厳しい処分はまぬがれない。それどころか、警察の捜査も受けかねない重大な犯罪行為だった。
それを容認したと言う事は、私たちと共にどこまでも一緒に来てくれると言う意味じゃなかったのか? それなのに、今になって無関係を決め込み、自分だけ助かろうなんて酷すぎる・・・!

 

大沼のこの一言で、三人の忠誠心は一遍に醒める。
私達は見捨てられた。
なんという醜い、あさましい姿。これが私達の大沼キャプテンなのか?

 

そこへ清水先生が決定的な物証を持ってやってくる。
例の持ち出したタオルである。
彼女もことなかれ主義からこの事件をうやむやのまま揉み消そうとしていた。

 

しかしここまで騒ぎが広がった今、それによって自らに火の粉が及ぶのは免れまいと悟る。
この上さらに問題を起こされでもしたら、取り返しのつかない事になるだろう。
事態を収拾するには自らバレー部のコントロールをとるしかなかない。
そのためにはカリスマである大沼を女王の座から引き摺り下ろし、奪われたままの主導権を取り戻さなければならなかった。

 

清水は中原にタオルを突きつけ、「あなたが石灰を持ち出す所を見たという証人がいる」 と迫った。
証人と聞いて中原は気絶せんばかりに驚いてしまう。
 
証人!?そんなバカな!

 

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「陸上部の人が見ていたのよ。その人には私から黙っておくように頼んであるけど、今ここに呼んで話してもらいましょうか!」

 

・・・もはやグウの音もでなかった。

 

こずえのタオルに石灰を仕込んだ実行犯が中原であるという事は、当時の状況から誰でも想像がつく。
実際にはそんな証人などいなかったのだろう。
つまり、これは清水の仕掛けたブラフだったのだ。

 

だが追い込まれ、動揺している大沼達にとってこれは決定的な一撃となった。

 

「大沼さん。放課後、全員を体育館に集めなさい。お話があります!」

 

間髪いれず命令を発する清水。
これまで飾り人形とバカにし、存在を無視し続けた清水だったが今日は違う。
大沼達は従う以外になかった。

 

「どうしよう・・・この事がばれたら退学だわ・・・私、もうバレー部なんてやめる・・・・」

 

わっと顔を押さえて泣き出す中原。
この後、大沼に対する尊敬も忠誠心も失った他の二人も逃げるようにしてバレー部を去っていった。

 

放課後、清水は職員会でバレー部解散を通告された事を部員達に告白する。
内紛やゴタゴタばかり起こし、腐り切った今のバレー部には存在の価値がないと判断が下されたのである。事実、大沼体制下でバレー部の対外試合での成績も不振を極めていた。

 

ただし、校長の提案によりひとつの条件が出された。
それは心を入れ替え練習に精進し、伝統あるバレー部の誇りと実力を取り戻せたら存続を一考しようというものだった。

 

「その証明として強敵の美沢学園と試合をし、そして見事勝利できたら更生が果たせたと認めよう。校長先生はそうおっしゃいました。あなたたち、バレー部のためにもう一度美沢と戦う勇気はある?」

 

清水の問いかけに大沼はボソボソとしか答えられない。

 

「・・・神田さんたちレギュラーが辞めてしまった今、試合をしたところで・・・」

 

「勝つ自身がない。そう言いたいのね。」

 

「・・・わたくしも、バレー部を辞めます・・・」

 

言い終わらぬうちにこずえのほうへ向き直った大沼は、うって変わって怒気を含んだ言葉を憎々しげに吐きつけた。

 

「鮎原さん、あなたの望み通りになったわね!・・・キャプテンの座をゆずるわ!うれしいでしょう?もうバレー部をどうしようと、あなたの好きにしたらいいわ!」

 

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女王と呼ばれた大沼の威光が、彼女の体制とともに完全に滅び去った瞬間であった。 






 第45話「マシンガン・アタック」

 

それからしばらくたったある日の昼休み。
こずえと桂城は校庭の隅で大沼の姿をみつける。
ひとりぼっちで黄昏ている哀れな大沼。
かつて教師達ですら頭ごしに睥睨していた女王の瞳は伏せられ、苦悩にゆがんだ顔は深い絶望に打ちひしがれていた。

 

「もう誰も彼女には近づかないそうよ。」

 

「え?」

 

「大沼さんが女王じゃなくなったからよ・・・」

 

石灰事件やクーデター騒動、それが原因による大沼の失脚は遍く知る所となり、彼女の名声は地に堕ちていた。大沼はカリスマから一転して全校生徒から後指をさされる立場になってしまったのである。
さらにその上で自暴自棄になった中原に告られ、抱きつかれたか。須賀と神田に待ち伏せされ襲われたか。どちらにせよこの世にこんなグロテスクな愛があるなんて、お嬢様優等生の彼女には想像を絶する事だっただろう。
大沼は三人の自分に対する忠誠心の正体を知って吐くほどのショックを受ける。
禁断の花園に君臨しながら、その深淵部の最もおぞましい核心には全く気付いていなかった大沼は、女王として余りに無邪気にすぎたとしか言いようがなかった。

 

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チャイムが鳴り、生徒たちが一斉に教室に駆け戻って行く中、人目をはばかるようにひっそり立ち上がる大沼。
体も一回り小さくなってしまったように見える。
今の大沼なら、眼前に深い穴が大きく口を開けていても、避けることなく進んで行ってしまうだろう。
このままボロボロになって堕ちていくのは時間の問題だった。

 

そんな大沼を見てこずえはいたたまれなくなるが、もうどうする事もできなかった。

 

一方新生バレー部は清水の指導もと特訓につぐ特訓に明け暮れていた。
部の存続をかけ、対美沢戦に向け燃えるバレー部員一同。

 

ところが。

 

こずえ、早川、中沢ら1年生と2年生たちとの実力差。これが思わぬ陰を落としていたのである。
世界大会準優勝の全日本ジュニア代表で、レギュラーだったこずえ・早川はもちろん、中沢も全国制覇経験者。
対して武市ら上級生は何の実績も無い。
しかもデクノボウだった神田たちに存在を許されていたという事は、彼女たちより実力はもっと下という事になる。
つまりどうしようもなく凡庸だったのである。

 

そのうち早川は当然のような顔をして上級生たちを仕切るわ、中沢は無神経にもこずえをキャプテンと呼ぶわ(まだ暫定キャプテンも決まっていない)。2年生たち、特に反乱の首謀者だった武市と石川にすればこれは面白くない。
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きっかけはこずえたちが作ったにせよ、自分たちが実力で大沼体制を打倒したという自負がある。
対抗心を押さえられない武市は、こずえらが出す作戦や戦力分析に関してあえて異論を挟み自己主張を始めるが、それもことごとく脚下されてしまう。
理論でも1年生に負けていたのだ・・・。
そしてこの軋轢が決定的となったのは、武市が「マシンガン・アタック」の攻撃メンバーから外された時だった。

 

清水発案の「マシンガン・アタック」は高度な技術を要する速攻である。

 

スパイク・マシンの時速80㌔超を打ち返すという三原。
この三原に、こずえのスパイクが通用しないとなると富士見が勝つチャンスは極めて少なくなる。
清水は「マシンガン・アタック」に富士見の勝利とバレー部存続の望みを賭けたのである。
それだけに一切の妥協を許さぬ覚悟で練習に臨んだ。

 

一転して鬼となった清水の特訓は苛烈を極めた。

 

当初の攻撃メンバーと担当は、早川レシーブ、武市トス、こずえスパイクだった。
だが、どうしても武市のトスがつながらない。
それが己の力不足である事は武市自身百も承知していた。
しかし彼女にも意地がある。断じて成功させねばならなかった。
休み時間も斜めトスの練習を繰り返す武市。周囲も彼女の並々ならぬ執念に目を見張った。
だがその時、清水は非情な判断を下す。

 

「武市さん。あなたはもういいわ。中沢さん!あなたがレシーブ、早川さんがトスよ。」

 

通常なら武市の努力に免じてもう少し時間をくれてやるところ。
だがバレー部の命運をかけた試合は一週間後。猶予はなかった。

 

中沢が入り、オール1年生トリオになった「マシンガン・アタック」。
武市の時ではうまく噛みあわなかった動きが中沢に代わった途端にスムースに回り出した。
希望が見えたと小躍りして喜ぶ清水以下バレー部員たち。その片隅でボールを手にたたずむ武市の姿があった。
挫折感に打ちのめされた武市の目にみるみる涙があふれ出す。
だが親友の石川以外、その涙に気付くものは誰もいなかった。
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翌日、武市と石川は部室に退部届けを残してバレー部を去る。

 

驚いたこずえは、後を追って武市を問い質した。
すると武市は、今まで聞いたこともないような、投げやりで蓮っ葉な口調でこう答えたのである。

 

「あなたがキャプテンになった時、私達2年生がいては邪魔でしょ?」

 

こずえはまだ自分が正式にキャプテンになったわけじゃないと弁解する。しかし・・・

 

「あなたは私と違って実力もあるし、チームもあなた中心にまとまっているわ。
キャプテンになって当然なのよ。 私じゃない。今のバレー部に必要なのは、私達じゃなくてあなたなのよ!」

 

ねたみとひがみが入り混じったどうしようもないセリフだった。彼女自身、こんなセリフを吐いてしまう自分が情けないと思ったに違いない。

 

言い終わるや武市は、目も合わさずその場を走り去って行った・・・

 

 (つづく)






鮎原こずえ・・・小鳩くるみ
大沼みゆき・・・栗 葉子
早川みどり・・・坂井すみ江
清水先生・・・・森 ひろ子
中原裕子・・・浅井淑子
神田幸子・・・麻生みつ子
須賀光代・・・北原智恵子
武市香代子・・・菅谷政子
石川一美・・・松尾佳子
中沢・・・・・沢田和子

 

第44話「強敵・スパイク・マシン」(1970・10・4)
第45話「マシンガン・アタック」(1970・10・11)