「アタック」の遺伝子?『あしたへアタック!』

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スポーツヒロインもののアニメは意外に少ない。それでもバレーでは「アタック№1」を含めて現在まで3本が作られている。実写では『サインはV!』以降、石森章太郎原作の『燃えろアタック』(1979)や2005年のドラマ『アタック№1』があった。

 

昭和40年代前半、「アタック№1」と「サインはV!」のヒットにより少女マンガ界にも空前のスポ根ブームが到来する。
そのジャンルはテニス、体操、水泳、ボーリングと多岐に渡ったが「エースをねらえ!」以前の少女スポ根の王道は、やはりバレーボールだった。
「アタック」「サイン」に続けとばかり週刊誌から怪しげな駄本にいたるまで多くのバレーマンガが登場し、まさに百花繚乱、玉石混淆の状況であったが「アタック」「サイン」ほどのヒット作はついに生まれなかった。
個人的にはさがみゆきの「スパイク1・2・3」ひばり書房(!)なぞも好きだが、同時期のスマッシュヒット作であった井出ちかえの「ビバ!バレーボール」(1968~1971)は現在でも文庫で購入できる。

 

しかしアニメに目を向けると70年代は魔女っ子アニメ全盛期。
75年の「新・エースをねらえ!」終了後はバレーどころか少女スポコン自体が絶滅したかに見えた。 
そんな中突如出現したのが、王道バレーボールアニメ『あしたへアタック』(1977)である。
そしてこの『あしたへアタック!』こそアニメ「アタック№1」の正当な後継者と呼んでもおかしくはない作品なのであった。

 

『あしたへアタック』は同年11月に開催されるバレーボールワールドカップに合わせ、独占放送権を獲得したフジテレビによって企画された。
フジといえば「アタックNo.1」である。
当時のフジは視聴率低迷にあえいでおり、この企画に「アタックNo.1」の再来を期待していた事は間違いない。
「アタックNo.1」のオリジナルスタッフからは演出・監督に黒川文男、岡部英二、脚本に山崎晴哉、七条門らを迎え、原作は「サインはV」の神保史郎が担当。
そもそも「サインはV!」自体が「アタック№1」を強く意識して作られた作品であったわけだから、まさにこの作品は「アタック№1」の遺伝子を濃厚に受け継いだと言っても過言ではない。

 

こうして「アタック№1」と「サインはV!」の最強の合体によって生まれ、少女スポ根の最終兵器とも言うべき期待を担った『あしたへアタック!』だったが、結果は見事にコケた。

 

理由はいろいろ考えられるが、スポ根ものとしてはインパクトに欠ける主人公や前半の地味なストーリー展開などがターゲットの子供達に受けなかったのだと思われる。(裏番組は『元祖天才バカボン』)
何より魔女っ子やロボットアニメ全盛期に「アタック№1」的な正統派スポ根は無理があった。
『あしたへアタック!』は敢え無く短期で終了。リアルタイム世代でもその存在を知らない者が多く、再放送やソフト化の機会にも恵まれず幻の作品扱いされてきたのだった。

 

『あしたへアタック!』登場人物
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原大介・・・元全日本の選手で橘高校バレー部コーチ。かつて決闘まがいの勝負でチームメイトを不具にしたという忌まわしい過去を持つ。しかし普段はいたって穏やかで、劇中で生徒達にキレたり暴力を振るったりする事は一切なかった。 飄々として掴みどころの無い人物だが、本郷のような奇人ぶりは少なく案外まともである。

 

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聖 美々(ひじり みみ)・・・主人公。シゴキ死事件を起こし活動停止状態だったバレー部の再建に情熱を燃やすが、非協力的な一条や知能の低い一年生たちにキリキリ舞いさせられる。
実家は祖母と弟の3人暮らし。早くに両親を亡くし、幼い弟の面倒を親代りになって見てきた。母性的で温かい性格だが、胸には不屈の闘志を秘めている。我を通さず、争わず、協調性を第一に重んじる点も1人っ子のこずえとは違う。「いたって快調!」が口癖の、明るく前向きな高校3年生である。
杉原ゆかり・・・現役バレー部員。聖美々の唯一の味方にして頼りになる戦力。性格はぐっと砕けており、やや優等生すぎる主人公に視聴者目線のツッコミを入れる役目を果たす。諜報活動も得意。

 

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一条明日香・・・この物語のもう一人の主役。金髪の超美形でこずえに対する早川に相当するキャラだが、性格は遥かにダークで険しい。バレーを愛する心と実力では聖美々に負けないが、屈折した性格から度々チームの足を引っ張る。心に深い傷を持ち、13話で素直な心を取り戻すまでは目が離せない。
試合中は髪型をポニーテールにしており芸が細かい。

 

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1年生3人組・・・関谷、太田、西。
三人ともズブの素人のうえ、幼稚で運動神経も鈍く全く頼りにならない。デブの太田と落語マニアの関谷はシゴキ死事件の幽霊見たさに(!)入部。チビの西は最初からマネージャー志望でしかなかった。

 

この補欠もいないたった6人のバレー部員達が、コーチとともに春・夏の全国大会へ挑む。

 

で、この『あしたへアタック!』だがやはり「アタック№1」のオマージュ(パクリではない?)とも受け取れる部分が多々見受けられる。
主人公の通う橘高校は、富士見高校と同じく漁港のある港町。必殺技で『殺人スパイク』『弾丸スパイク』も登場する。
他にも「アタック№1」と類似、符号する点がかなりあった。
たとえば、家が金持ちで自宅にスパイクマシンを買い込み練習+必殺技が顔面を狙い撃ちする恐怖スパイクという羽鳥京子など設定がもろに三原由美子と被っている。 

 

さらにいくつか挙げると・・・

 

『稲妻攻撃』・・・主人公たちの得意技として登場。名前こそ八木沢三姉妹の「稲妻攻撃」であるが、内容はほぼダブルアタックと同じ。
また「あしたへ~」では『ダブルスパイク』という技も登場する。ダブルアタックと紛らわしいが、これは飛行中のスパイクを後ろから打撃し二段ブーストで加速させるという、オリジナルの荒業だった。

 

竜星高校の『竜(じゃ)踊りアタック』・・・三位一体攻撃の6人バージョン。攻略法も「一人が一人づつを見る」と、三位一体を破った方法と全く同じ。
さらに九州訛りのキャプテンが工事現場の落下物から超人技を使って子供を救うが、これは垣之内の初登場シーン「あぶなかー!」と瓜二つ。

 

林泉商業の『コンピュータ作戦』と『カメラ男』・・・機械万能主義のコンセプトや、ダンスダンスレボリューション方式の特訓法まで東南学園と酷似。カメラ男は「アタック№1」が8ミリだったのに対し、「あしたに~」ではビデオに進化している。
また相手方のサングラスをかけた右手の利かないコーチと、原が言い合う場面はアタック№1第31話における猪野熊と本郷の激突を彷彿とさせるものだ。

 

そして最終回に登場した京都四条高校の『なぞの控え選手』。
これが寺堂院の川地絹子と同じ役回りを演じ、しかも明らかになった彼女の必殺技は、なんと「人間煙幕」そのものだった。

 

などなど・・・
「アタック№1」を深く愛する者であれば、『あしたへアタック!』これは当然見逃せない一品なのである。

 

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おそるべき敵たち!!

 

(上から)白いコートの呪いの使者「殺人スパイク」の花房みつる、顔面破壊「シュートスパイク」の羽鳥京子(右)とバレー部の天敵・バスケ部キャプテン白木ルミ、奇奇怪怪「竜(じゃ)踊りアタック」の竜星学園、北の肉弾地獄「地吹雪サーブ」の大雪山高校、人智を超えたマッハの恐怖「光アタック」の桂ハルカ、「コンピューター作戦」によりロボット化した林泉商業バレー部、そしてモーターボートに乗ってやって来た「女番長」白バラ学園のキャプテン二階堂(右)とその手下。すげえ・・・ 
『あしたへアタック!』ではこのようなハッタリの効いた濃ゆいキャラが続々登場してくるが、惜しむらくはそれらの魅力が生かしきれず、不完全燃焼に終わるパターンが多かった事だ。

 

見ての通り、『あしたへアタック!』には一部極端に『ベルばら』や『エースをねらえ!』に似たタッチのキャラが登場し、「アタック№1」からの歳月の流れを感じさせる。
絵に関しては海外の製作会社への下請がメインだったとはいえ、日本アニメーション製作らしく背景美術も丁寧に描かれており、この時代の作品としてはそれなりに高い完成度であったと言えよう。
そしてこれは欠点でもあるのだが、全般になぜか引き気味で押しの弱さを感じさせる作風が、かえって過剰演出のいやらしさを打ち消す効果を果たしており、「アタック№1ひと筋」のオールドファンや80年代の『アタッカーYOU』はダメと言う人でも抵抗なく入っていけるだろう。
またプロット自体も今日の目で見ても決してつまらないものではない。
一条明日香や嵐三吉など一部キャラクターの造形や、イベントの布石やタイミングなどもウェルメイドで良く練られていたと思う。 
死亡事件を起こしたことで学校中から忌み嫌われるバレー部、誰からも相手にされない半端者、一匹狼たちによる控え選手のいないギリギリのメンバーなど、初期設定からして重くてエグい。
しかしおざなりな展開の速さ、肝心の試合シーンが面白くないなど、脚本や演出の甘さが目立ち作品全体の質を落としていた。
またそれらをぶっちぎるパワーや時代性も感じられず、そこが「アタック№1」との大きな違いだった。
ただ今見ると声優陣の豪華さが無駄に凄い。
メインはもちろん、ゲストキャラにもよくぞこれだけ人気派・実力派が揃ったものだと感心してしまう。
もっとも、今でこそアニメ声優はアイドル並みの人気があるが、かつては一般にほとんど省みられない存在だったが。
 

 

最後に、作品としては失敗作だった「あしたへアタック!」だが、堀江美都子の歌による主題歌は名曲として今なお熱い支持を得ている事を付け加えておこう。

 

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♪風は なんにも言わないけ~れど~

 

突然始まる悲壮感漂う前奏。
満面の笑みを湛え、乱れ咲く白菊の中を手をつないだまま別々の方向へ歩きだす主人公たち・・・

 

「あしたへアタック」の物語は、新学期からインターハイ終了までのわずか半年余りの出来事でしかない。
主人公の聖美々も一条明日香も決して恵まれた家の娘ではなかった。
最終回、高校最後の1年という夢の時代を終え、彼女達はそれぞれの道へと巣立ってゆく。
その結末には、過ぎ行く時の中で人は嫌でも変わっていかねばならぬという現実のほろ苦さを感じさせ、熱い中にもどこか物悲しさを湛えたこの主題歌が重ると感慨もひとしおであった。

 

 
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『あしたへアタック!』 1977年4月4日~9月5日